第81回アカデミー賞で作品賞(を含む8部門)を受賞したイギリス映画、「スラムドッグ$ミリオネア」(監督:ダニー・ボイル)です。TOHOシネマズ六本木シアター7で観賞しました。
見終わってしばらくして、この作品がオスカーを獲った理由がよーく分かった…ような気がしました。新自由主義の破綻による経済崩壊で、それまで見えていなかった(あるいは見て見ぬフリをしていられた)、「この社会の底の浅さ」を直視せざるを得ないようになり、そうなると「映画の世界だけでも希望が持てるものを」という意識がアカデミー会員達に働いたのかなぁ、と。
確かにこの作品、「ずっと虐げられてきた少年が、大逆転する物語」に表面上は見えますし、おそらくそう「見せたかった」んでしょう。ラストシーンの描き方(ダンスも含めて)はそんな感じですし。しかし飽くまでもジャマール少年が幸せをつかんだのは、「ひたむきに信じることと、奇跡的・おとぎ話的な運の良さ」であって、むしろそのことが、貧困層に生まれた者が豊かになることの難しさ(=天文学的とも言える確率の低さ)を逆に強調しているようにさえ思えてしまいました。この映画は、決して「幸せのちから」のような単純な「諦めずに頑張ればいつか報われる」的な(それでいて、実は運が良かった者だけを映した)作品ではなく、むしろ運の部分を強調することによって「多くの人は救われない」ことにスポットライトを当ててしまう作品なのではないかと感じました。
(以下、ネタバレあります)
途中、最も印象に残ったのは、タクシーの運転手に殴られるジャマールに、観光目的でインドにやってきたアメリカ人夫妻が「本当のアメリカを見せてあげるわ」と言って100ドル札を渡すシーン。もう完全にアメリカをバカにしきった監督の態度が伝わってきて、最高でした。この作品、1年前に公開されていたら、アカデミー賞では候補にすらならなかったんじゃないか、という気がしてしまいました。
個人の力では(天文学的確率を乗り越えなければ)抜け出すことの難しい貧困社会。作中に出てくる悪党ママンは、「俺のようになりたければ強くなれ」と言います。ママンは子どもの目を焼いて悲壮感を演出することによって稼ぎを倍化させようとするほどの極悪非道者ですが、しかし彼は己の知力と行動力でその地位を手に入れています。それゆえ、圧倒的な強度がある。ママンを殺したジャマールの兄・サリームにも、(ラストシーンの自己犠牲を見るまでもなく)やはり「こうしなければ生きてこれなかった」という決断の場面を乗り越えてきたという過去を背景にした強さを感じます。ジャマールはどうか。知恵とひたむきさで生きているものの、実はいつも兄・サリームに助けられ、最後には運で豊かさと愛を獲得しただけ。にもかかわらず、映画鑑賞者である私はどうしても「正直でひたむきなだけ」のジャマールを応援してしまいます。この理性と感情のギャップが何なのか、この手の映画を観るたびに最近思うことなのですが、まぁこれは私が平和ボケかつヘタレだから、ということなのでしょうね…。
個人的満足度:★★★★☆(まぁ、誰にでもオススメできる作品かな。ウォッチメン後でなければ5つにしたかもw)
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吉川マサルと申します。Webサイト

4月 18, 2009 at 22:39:46
マサルさんこんばんは☆
コメTBありがとう〜
ウォッチメン2回観ちゃいましたのね♪
わたしも観たいと思いつつ、、、、
こっちの方がさらにわたしはよくてまた観たいです^^
あ、でもグラントリノもさらに良かったですヨ!
ラストのインドムービー的ダンス、最高でポイント上がっちゃいました♪
4月 19, 2009 at 17:49:32
マサルさん、こんにちは!
初日に六本木ヒルズで鑑賞されたのですね!混んでいましたでしょうか?
なるほど、マサルさんはこの作品をそれほど面白いと思えなかったのですね。
確かに、第三世界の暗黒面を覗かせる部分がたくさんありましたね。
>個人の力では(天文学的確率を乗り越えなければ)抜け出すことの難しい貧困社会
>新自由主義の破綻による経済崩壊
この二つの世界が、どこか近しく感じさせる部分は感じますね。
自分として、それほど暗く重苦しく感じなくて済んだのは、『シティ・オブ・ゴッド』のような作品を見て衝撃を感じたことがあるからかな?なんて思います。
マサルさんの感想を読んで思ったのは、普段ハリウッド映画など先進国の価値観で描かれた作品ばかりを多くご覧になっているので、自分とは基本的に隔たりを感じてしまう部分があるのかなあ、というのが率直な感想です。
よろしかったら、自分の’04年のベスト1の作品、『シティ・オブ・ゴッド』を見てみて欲しいです!
4月 20, 2009 at 02:17:10
マサルさんこんばんは!
良く練られた脚本に、テンポのよい楽曲、絶妙のカメラワークと、オスカーを獲得するのも納得の作品でした。が、個人的にはちょっと綺麗にまとまりすぎかなとも思ったり。
初恋の相手をずっと想い続けるジャマールの切なさは男性なら誰でも長短はあるものの経験があるんじゃないでしょうかね。節目節目で出会いながら無理やり引き裂かれる2人は観ていてつらく、それだけにラストが引き立ったなぁと、観終わった今は感じています。
ちなみに巷ではラストのダンス賛成派と反対派に別れていますが、マサルさんはどちらですか?私は反対派です。(笑)
4月 20, 2009 at 17:31:25
> mig さん
グラントリノは、今週(出来れば)初日に観に行く予定です。
ラストのダンスは、やや驚くと同時に「やっぱりか!」という感じでもありました。劇中で死んじゃった人も踊ってたりしないかなーと思ってサリームやママンを探してしまいました。アレを観ると、やっぱり単純な「成り上がり物語」と観るのが正しいのかな〜とも思ったりもするのですが、..ううん、どうなんでしょうか。(^^;
4月 20, 2009 at 17:41:40
> とらねこ さん
初回の六本木ヒルズはさすがに混んでいました。私は予約受付開始直後に座席予約しておいたので、最高の席で楽しむことができましたが。(^^v
> なるほど、マサルさんはこの作品をそれほど面白いと思えなかったのですね。
いえ、そんなことは全然ないのですが(★5つに近い★4つですし)、ちょっと「素直にジャマールの奇跡を喜んで(能天気に)楽しんで良いのか」という複雑な感情が爽快感と同時にあった、というだけのことです。逆に言えば、「爽快感を与えながらも、いろいろと考えさせる秀作」と言えるのかも知れませんし、多くの人はあまりそんな感覚に陥らないのかも知れません。掛け値なしに「良い映画だった」と言えると思います。
「シティ・オブ・ゴッド」は未見です。近いうちに観賞させていただきます!今後も、そういった映画をどんどん教えていただければ嬉しいです。なにせ、にわか映画ファンなもので..。m(__)m
4月 20, 2009 at 17:52:11
> KLY さん
> 良く練られた脚本に、テンポのよい楽曲、絶妙のカメラワーク
そうですね。特に脚本については、莫大な予算を使わなくても脚本で超大作と勝負できる、あるいは「やっぱり映画は脚本が命だ」と思わせるのに十分なものだったと思います。観ていて全く飽きませんでしたし。
> 個人的にはちょっと綺麗にまとまりすぎかなとも思ったり。
まぁ、「出来すぎた話」感はありますよね。そんなわけで私は、あえて「出来すぎ」にしたところに、ダニー・ボイルの「実は伝えたいコト」が逆説的に埋め込まれているのではないか、なんてやや穿った見方をしてしまいました。
> ラストが引き立ったなぁと、観終わった今は感じています
私は「お金は手に入らなかったけれど、愛は手に入れた」というありがちな展開になるのかなぁと思っていたのですが、ちょっとハズレましたね。テレフォンが最後に残っていたことなんて、すっかり忘れてましたよ。(^^;
> ラストのダンス賛成派と反対派に別れていますが、マサルさんはどちらですか?
私は…まぁ賛成派ですね。特に深い/強い理由があるわけではないのですが。劇中で死んだ人物(サリームとかママンとか)が踊っていたら、ちょっとドン引きだったかも知れませんが。(^^;
4月 22, 2009 at 00:01:24
なるほど。
私もジャマールの話は確かに痛快ではあるものの、あまりにも出来過ぎで御都合主義でもあり、むしろ彼が逆説的に体現している物にこそ映画のテーマがあるのではないかという気がしています。
アカデミー賞は確かに意外でしたが、アメリカ人はジャマールに感情移入して喝采するというよりは、傲慢なアメリカ人をジャマールと共に笑い飛ばせる自分自身に安心してるんじゃないかという気がしました。
まあそれは日本人も同じではあるのですけど。
確かに経済破綻前と後では受け止められ方が違う作品でしょうね。
4月 22, 2009 at 09:30:31
> ノラネコさん
私も「こういうのはスカっと楽しんだほうがオトクだろうなぁ」と思いつつも、ついついいろいろ考えちゃいまして..。でも、ノラネコさんが同じような見方をされていてちょっと安心?しました。
>. アメリカ人はジャマールに感情移入して喝采するというよりは、傲慢なアメリカ
> 人をジャマールと共に笑い飛ばせる自分自身に安心してるんじゃないか
なるほどー、「器の大きさ」を確認してる感じでしょうかね。あるいは、「ここでこの作品を選ばなかったらチッチャイ奴だと思われる」的なチッチャイ考えか。(^^; いずれにせよ、「本当のアメリカを見せてあげるわ」にはぶっとびました。(^^;
4月 24, 2009 at 00:44:32
コメントありがとうございました!
はっきりいうと ジャマール自身が悲惨な人生を生きたとも思えなかったし、その人物にもあまり魅力はないですよね
貧しくても家族にしっかり愛され守られ、それによってどのような状況でも無邪気さと能天気さを失わずに生きてこれて、いってみればクイズ番組に出る前から運のいい人物。だから感情移入はできなかったです。
でも映画全体がもつ、インドパワーに魅せられ圧倒されたという感じでした。
貧困や犯罪という影の部分があるからこそ、対比でより輝く生へのパワー際立たせていたのでしょうね。
私は、ファンタジーとして楽しんでしまいました!
4月 24, 2009 at 14:44:59
こんにちは♪
>「本当のアメリカを見せてあげるわ」
コレは本当に痛快でしたね。
確かにジャマールは運に恵まれていた、
兄貴の助けあってのことは感じたんで
すが、クイズの問題=ジャマールの半
生と言う作りの方に強く魅せられてし
まったんで、気になった点は帳消しと
言ったてぇ感じですかね~。
まぁそんなワケでボクは単純にその作
りと爽快感に酔ったってぇやつです♪
(゚▽゚)v
4月 26, 2009 at 16:49:20
> コブタさん
>でも映画全体がもつ、インドパワーに魅せられ圧倒されたという感じでした。
私もそんな感じでした。ただ、第3世界の犠牲の上に裕福な生活を送っている(映画三昧なんて、贅沢もいいところですよね)ことを考えると、どうも素直に大喜びする気分にはなれませんでした…。
>私は、ファンタジーとして楽しんでしまいました!
たぶんそれが(インドの現実を自覚しつつ映画は映画で楽しむ)のが正しいのかなと思います。ただし、こういった「生まれの偶然」で自分が社会システムというゲタを履かせてもらっているラッキーな存在であること、そしてアンラッキーな人たちが確実にいることには無自覚にならないように気をつけなければと思います。
4月 26, 2009 at 16:53:06
> 風情♪ さん
> クイズの問題=ジャマールの半生と言う作りの方に強く魅せられてしまったんで
私も映画の作りは(たいして本数を観ていないのでエラソーには言えないのですが)斬新に感じましたね。悲惨な過去の映像の連続と、破竹の勢いで正解しつづける現在の映像が交互に描かれることによって、暗さと明るさがバランスよく配合された作品になったと思います。そしてラストがああいう終わり方だったので、爽快感というか痛快な感じがやや強めの印象として残る、という感じかなと。あの辺は、トレインスポッティングのときもそうだったんですが、ダニー・ボイル監督の得意な作り方という感じなんでしょうかね。
5月 1, 2009 at 22:32:37
こんばんは
世の中が暗くなればなるほど
希望や人間賛歌を謳ったハッピーエンドな作品がヒットすると
聞いたことがありますが
もしかしたらこの作品がここまでウケたのは
その風潮によるところも大きいのかもしれませんね。
もちろん素晴らしい脚本や演出や映像など
完成度の高い作品には違いないのですが
テーマは直球のサクセスストーリーで
しかも「愛は勝つ!」ですもんねー。(綺麗事)
でも殺伐とした時代だからこそ,映画の中くらいは夢を見たいという
万人の願いを満足させてくれる点がこの作品の勝因の一つかも。
5月 2, 2009 at 14:25:01
> なな さん
>世の中が暗くなればなるほど
>希望や人間賛歌を謳ったハッピーエンドな作品がヒットする
まぁ、そういう面はありそうです。しかも現在世の中が暗い(と言われている)理由は、経済がその主因ですから、この映画が評価された理由も分かりやすい気がしますね。
個人的には、ダニー・ボイルは(「トレイン・スポッティング」しか観ていないので確信はないのですが)、そんなに能天気な監督とは思えない部分があって、そんなわけで上の記事のような裏読みをしてしまいました。(^^;