ショーン・ペン監督のアメリカ映画、「イントゥ・ザ・ワイルド」です。新宿武蔵野館のレイトショーで観賞してきました。実は「青い鳥」を観るつもりだったのが、恵比寿のマルジェラで2009SSの話を店員さんとしていたら、思わず上映開始時間を過ぎてしまっていたという….そんな事情で予定外に観た作品だったのですが…。
いやぁ、観ておいて良かったです。上記のような事情での観賞ですから、さほど興味があったわけでもなく、マルジェラでの一件がなければ観なかったことでしょう。もちろん、「青い鳥」は別の機会に観なくてはなりませんが。(^^;
物語の主人公(といっても実話をもとにしていますので、実在する人物です)であるクリスは、優秀な成績で大学を卒業したにもかかわらず、2万4000ドルの貯金も家族も名前も捨て、突然旅に出ます。アレックス(=クリス)旅で出会う人々との交流の描写と、クリス(=アレックス)が全てを捨てて旅に出るのに至った経緯の説明となる描写が交互に描かれるというスタイルで映画は進みます。当然、時系列に沿ってはいないのですが、それほど分かりづらいということはありません。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」あたりに比べればずっと分かりやすいですね。
この映画におけるクリスの行動・言動には、現代社会に生きる者のほとんど誰しも多少なりとも共感できる部分があるのではないでしょうか。
「権威とお金は今世紀の遺物だよ」
このセリフには私も共感できる部分があります。お金も権威もしょせんは<社会>という、人間が作った仮想空間の取り決めゴトであって、そんなものじゃあ生きている実感は得られないし、ゆえに人生の目的なんかに成り得ない。日本でも少し前の世代の人たちは、「いい学校・いい会社・いい人生」(宮台真司の「14歳からの社会学」より)を本気で信じていたけれど、最近はそれがウソであることは周知の事実となりつつありますよね。
「人生は人間関係だけじゃない」
このセリフには私は違和感を覚えます。<社会>にどっぷりつかった存在でる私は、人とのコミュニケイションそのものが人生の最大の喜びだと感じているところがあるからです。それを彼は断とうとします。クリスは<社会>から<世界>へ旅立つことに、生きる意味を見いだそうとします。すなわち可能な限りの文明を捨て、荒野で生活することを目指すのです。
欧米で拡がりつつあるスローライフ・スローフードという生活様式は、生きる喜びの模索の一つです。やや拡大解釈すれば、大元になった考え方はこの主人公のそれと一致する部分が多いかも知れません。しかしながら、「荒野へ」向かうという彼の選択は、「気持は分からんでもない」ものの、実際に選択するほどの動機付けを普通の人は持ち合わせていません。彼がなぜそれほどまでに「人間の作った社会」を忌むのか、その謎は物語で徐々に明らかになっていきます。観客を飽きさせず、しかも彼の生き方をしっかりと時間をかけて描写する、うまい手法だと思います。
「大切なのは本当の名前で呼ぶこと」
「幸福はともに分かち合う人がいてこそ得られるもの」
彼が荒野で衰弱していくシーンでのこのセリフは、<社会>から<世界>に飛び出た彼がようやくたどり着いた(彼にとっての)真実です。このセリフは、<世界>から発せられるからこそ、強い意味と説得力を感じます。「もし彼が<社会>に帰ることがあるなら、真の意味で両親を許せるだろうし、演技でない幸せな家族・家庭を築くこともできるだろうなぁ、そうなって欲しいなぁ」などと思いつつ、しかし予感として「しかしそれは敵わないのだろう」とも思いながら映画の終盤を観賞していました。
「誰かが作った世界を人間は許せない」
これはこの映画のセリフではなく、これまた宮台真司の「14歳からの社会学」で述べられていたことです。「マトリックス」のような世界を、人間は(気付いてしまえば)許せない。この社会もまた、誰かが設計したものではあるけれど、何か一つの目標(ex.豊かさ)に向かっているときには、そんなことを考えるヒマはなく、多くの人は社会に疑問を抱かない。しかし、高度な豊かさを達成した今、人々は設計した側のことを意識し始める。この物語の主人公が亡くなったのは1992年だけれど、それから16年経った今のほうが、このような青年が現れる可能性は高まっているように感じられます。もちろん、彼らが求める<世界>は、「荒野」ではなく別のモノ(例えば「PCの中」「ネット社会」、もしくは「破壊」とか)かも知れないのですが。
個人的満足度:★★★★☆(人生の節目で観るようにしたい作品です)
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吉川マサルと申します。Webサイト


12月 8, 2008 at 21:30:10
マサルさん、こんにちは。
誰かが作った世界に納得いこうがいくまいが、ヒトは世界の一部として生きることで安心を得ている・・のかもしれません。安心の上での不満。人間ってつくづくそういう生き物なんですね(^^;
真の自由に放り出されたとき、どれだけの人間が自分の世界を確立できるかというと、おそらく・・といったところではないかと思います。
クリスは強い人間でしたね。
でも弱いからこそ群れて何が悪い!でもある私かな?
12月 8, 2008 at 22:18:51
> たいむ さん
>安心の上での不満。
なるほど名言ですね。豊かになればなるほど、余計なことを考える…業の深い生き物ですね、人間は。
クリスは実在の人物とは信じ難いほどに強い人間でしたけど、最後の最後で運が悪かった気がします。その点、本当に残念です。生きて帰ってきて、「社会に生きる」ことの意味を我々に教えて欲しかった気がします。